No.126 事件報告 措置要求の判定取消判決を勝ち取る

2008/05/20(火)

■事件報告 措置要求の判定取消判決を勝ち取る         渥美 雅康      

■三重県労働委員会公益委員選任に関する三重県知事への申し入れ  後藤 潤一郎   

■新人紹介 弁護士法人リブレ                 清水 ちはる                       

                                                    

                                                                    

≪事件報告≫

 

措置要求の判定取消判決を勝ち取る

                  渥 美 雅 康

 各務原市の職員が勤務評定の不当を理由に申し立てていた措置要求を同市公平委員会が却下したため、その判定の取消を求めた裁判で、岐阜地方裁判所は、本年2月27日、この却下判定を取り消すとの判決を言い渡しました(判決文は最高裁HP、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080310162716.pdf  参照)。

 地方公務員の勤務評定は地公法に基づき従前から行われていましたが、各務原市では平成14年末から、全職員を対象に勤務評定結果(5段階)に基づき勤勉手当の格差支給(1.2~0.8)を実施するようになりました。それでも、これまでDE評価は30名前後(全体の2~3%)にすぎなかったのが、平成17年11月の勤務評定では、市長方針を受けてDEが一挙に134名(全体の13.9%)に増えるという異常な事態となりました。そのため、市労連でも理由説明や勤務評定書の開示要求、団体交渉などで事態の改善を求めたものの、市の対応が頑なであったため、4名の職員が公平委員会に措置要求を行うこととなり、そのうち却下判定を受けた原告がさらに取消訴訟を提起したものです。

 原告の措置要求が却下されたのは、簡単に言えば、措置要求書に勤勉手当の是正を求める旨が明記されていなかったためです。東京高裁の昭和40年4月28日判決は「勤務評定それ自体は勤務条件に該当しないから措置要求の対象とならない」と判断しており、これが先例となっています(ただし、事案は勤評制度自体の廃止を措置要求で求めたケース)。 しかし、本件では勤務評定は勤勉手当に連動しており、だからこそ大きな問題になったことは、職員には自明のことでした。しかも、措置要求には「損害に対する補償」を求める記載もありました。にもかかわらず、公平委員会は、何ら原告に申立の趣旨を確認したり、補正を命じたりすることなく、書面審理だけで簡単に却下したのですが、これは労働基本権制限の代償措置である権利救済機関としては、あるまじき態度です。

 判決は、一般論としては先例の示す判断枠組みに寄りつつも、「損害の補償」を求める「原告の真意」は「勤勉手当の減額についての回復措置を執ることを求める趣旨であると解釈すべき」であり、具体的主張がなかったなら「補正命令を発すべき」で、「漫然と措置要求の対象とならないと判断したことは、違法」としました。これは、当たり前といえば当たり前の、ごく常識的な判断ですが、やはり裁判所が公平委員会の姿勢を正面から批判した意味は大きいといえます。とくに公務員の成績主義が強化される今日の情勢のもとでは、本来公平委員会の果たすべき役割はそれだけ大きくなっているのです。なお、この勝利判決に励まされて、現在は再度の公平委員会で勤務評定の当否という本案の審理が始まっており、その結果も注目されます。(弁護団は樽井と渥美が担当)

 

 

 

 

 

三重県労働委員会公益委員選任に関する三重県知事への申し入れ

 

後 藤 潤一郎

 4月16日、三重県知事に対して、東海労働弁護団および日本労働弁護団の標記に関する申し入れを樽井及び後藤において執行しました。

 当日は申し入れに先立ち40分ほど記者会見を行いました。私たちから労働委員会・公益委員の意義、この申し入れで何を問題にしたのか等を説明したところ記者から活発な鋭い質問が出されて理解を深めてもらいました。なお、中日新聞と伊勢新聞に両団が申し入れした内容の記事が掲載されました。

 申し入れに際しては、生活文化部勤労・雇用支援室の室長・副室長が対応しました。私たちは労働弁護団としてまた弁護士として職務基本規定の趣旨などに根拠づけられる公益的職務の公正・中立性の観点からの申し入れであることを丁寧に説明しました。県側からは「西澤弁護士には(弁護士として)申し入れしたのか?」との、選任側の責任を意識せず紛争当事者代理人間の紛議と混同しているような質問も出ましたが、当弁護団の求める担保措置として「三重県弁護士会の推薦」の方法があるとの意見に関しては頷いた印象でした。

 また直前9日に「ユニオンみえ」が選任問題等について三重県に申し入れをしていたことは後に知ったこと(機関誌第17号、4月20日発行)ですが、全体として県側は私たちを同ユニオンの代理人と誤解し、問題を矮小化している節の質問をしてきたため、全国的規模で三重県労働委員会が極めて問題のある公益委員選任をしていることの注意喚起に努めて申し入れました。

 なお、5月1日付で三重県は労働委員会委員15人の選任を発表しましたが、西澤弁護士は再任されませんでした。この記事も地元各新聞に掲載されました。

 以下に両団の申し入れ書を掲載します。

 


 

 


2008年4月16日

三重県知事  野 呂 昭 彦 様

                                                       東 海 労 働 弁 護 団

 三重県労働委員会公益委員選任に関する申入書

 

 貴職におかれては、益々ご清栄のことと存じます。

 東海労働弁護団は、愛知・岐阜・三重の東海3県下で労働者の立場に立って活動する弁護士集団であり、100名を超える団員を有しています。今回、本年5月1日に、貴職が新たに任命される三重県労働委員会の公益委員の選任に関して、次のとおり申し入れを行います。

 労働委員会の委員については公正な選任が求められることは当然ですが、とくに公益委員については、公益委員のみが労働委員会の権限のうち不当労働行為の審査・判定などの準司法的権限を行使できるとされているため、選任の手続及び選任される委員の公正性と中立性が強く求められます。

 三重県労働委員会においては、現在公益委員5名中3名が弁護士(うち1名が会長)ですが、その中に公正性および中立性に疑問が持たれる委員が選任されています。

 三重県労働委員会に平成17年から平成19年の3年間に申し立てられた不当労働行為救済申立事件は14件ありますが、そのうち13件が三重一般労働組合の申し立てた事件です。

 ところで、この三重一般労働組合と現実に労働紛争関係にある使用者側の代理人に、公益委員で会長である弁護士が所属する法律事務所の、当該公益委員弁護士を除く他の全弁護士が就任している事実が数多くあります。現在のところ、これらの労働紛争について三重一般労働組合は三重県労働委員会に不当労働行為救済の申し立てをしてはいませんが(端的に言えば、申し立てたくても上述の事情から労働委員会を信頼することができず申し立てられないのです)、労働組合と現実に対立する立場の使用者の代理人に就任している法律事務所に所属する弁護士が、労働委員会の会長、公益委員として、労働組合が申し立てた不当労働行為救済申立事件を審査・判定することは、不当労働行為審査における公正性・中立性を損なうと見られることが明らかであり、労働委員会設置の目的に著しく悖ると言わざるをえません。

 弁護士として公益委員に就任した以上は、労使紛争の一方当事者の代理人につくことを回避すべきであり、仮に弁護士として労使紛争の一方当事者の代理人に就任することが回避できない立場にあるのであれば、労働委員会の公益委員に選任されるべきではありません。そして、このことは、その所属する法律事務所の単位で考える必要があります。

 以上の次第で、当弁護団は、貴職に対し、貴職が次期三重県労働委員会公益委員を選任するに当たっては、労働委員会の公正性・中立性を損なうこと、また公正性・中立性に疑いをもたれることがないように十分に考慮されるとともに、三重県弁護士会の推薦を求めるなどの措置を講じることによって、公正・中立な公益委員の選任をはかられるよう求めるものです。

 

 

 


申    入    書

 

三重県知事 野呂 昭彦 殿

2008年4月10日

日 本 労 働 弁 護 団

第1 申し入れの趣旨

   西澤博弁護士を三重県労働委員会の公益委員に再任しないよう申し入れる。

第2 申し入れの理由

1 はじめに

     日本労働弁護団は、1957年に結成された法律家団体で、現在全国約1500名の弁護士から組織されており、憲法で保障された労働者と労働組の権利」擁護を目的として活動しています。

 

2 現在、三重県労働委員会の公益委員に選任されている西澤博弁護士は、県内にある楠井法律事務所に所属しています。

     楠井法律事務所に所属している弁護士は、「ユニオンみえ」が申し入れた団体交渉において、使用者側の代理人となり、「ユニオンみえ」と団体交渉に出席しています。

     しかるに、「ユニオンみえ」と対立する使用者側の代理人として直接交渉している弁護士と同一の事務所である楠井法律事務所に所属する西澤博弁護士は、「ユニオンみえ」が申立人となっている不当労働行為救済命令申立事件において、公益委員として事件の審査に関与しています。

 

3 確かに、西澤博弁護士が審査に関与した当該不当労働行為救済命令申立事件については、申立前も含めて、西澤博弁護士が所属する楠井法律事務所所属の弁護士は代理人とはなっていません。

    しかし、西澤博弁護士が所属する楠井法律事務所の所属弁護士は、「ユニオンみえ」の団体交渉について使用者側代理人として直接交渉をすることが頻繁にあることからすれば、たとえ当該不当労働行為救済申立事件については所属事務所の弁護士が代理人となっていないとしても、西澤博弁護士が「ユニオンみえ」申立にかかる不当労働行為救済命令申立事件に関与することは、公益委員としての職務を中立かつ公正に行うことについて、重大な疑念を与えるものです。

   西澤博弁護士は、公益委員として求められる中立性や公正さを確保するために、「ユニオンみえ」が労働委員会に申し立てた不当労働行為救済命令申立事件については、公益委員として審査に関与すべきでないことは明らかです。

   日本弁護士連合会の「弁護士職務基本規程」57条は、共同事務所における職務規律について、「所属弁護士は、他の所属弁護士が、第27条第28条の規定により職務を行い得ない事件については、職務を行ってはならない。」と定めており、第27条5項は、「仲裁、調停、和解斡旋その他の裁判外紛争解決手続機関の手続実施者として取り扱った事件」について、職務を行うことを禁じています。これらの規程の趣旨からも、西澤博弁護士は公益委員として関与すべきではなかったといえます。

   西澤博弁護士は、「ユニオンみえ」の不当労働行為救済命令申立事件について、自らの立場に十分考慮を払い、率先して回避(労働委員会規則39条)をしなければならなかったにもかかわらず、回避をしないで事件に関与し続けたことは、労働委員会制度への信頼を損なうものであり、ゆゆしきことと言わねばなりません。西澤博弁護士の公益委員としての資質に重大な疑念があると言わざるをえません。

 

4 日本労働弁護団は、西澤博弁護士が引き続き公益委員を続けることは、公益委員に求められる中立性や公正さの要請に反するものであり、ひいては団結権侵害の救済機能を持つ労働委員会制度に対する信頼を損なうものであると考え、同弁護士を、再び公益委員として任命されることのないよう厳重に申し入れます。


 

 

 

 

 

≪新人紹介≫

         弁護士法人リブレ

清 水 ちはる

 はじめまして。弁護士法人リブレの清水ちはると申します。

 リブレは岡崎、名古屋、半田の三か所に事務所がありますが、私は岡崎を本拠にしております。修習の期は59期ですが、その後1年間の浪人生活を送る羽目になり、昨年9月にようやく旧60期として登録いたしました。

 私は、名古屋市生まれ、豊川市育ちで、父親が現在も豊橋市で弁護士をしております。父も、若い頃(?)は東海労働弁護団に顔を出させていただいていたようです。父をご存じの方は、私の顔をご覧になると「似てるなぁ」とお感じになるのではと思います。

 今は、弁護士になって7か月が過ぎたところです。この短い期間の活動の中でも、刑事、民事を問わず格差社会の存在を突きつけられ、考えさせられます。

 団の活動には、新人歓迎会に出席させていただいて以来、なかなか参加できないでいます。つまり、私はまだ飲んで食べただけです。このような状態からは、早く脱したいと思っております。

 今後ともよろしくお願いいたします。




× 閉じる
- Powered by PHP工房 -